岸本建男とその時代』刊行委員会 【趣意書】
岸本建男が逝って早や
3
年近い時が経つ
。
彼が市政に参画したころに1町4村の合併がなされ、名護市が誕生した
。
北部の中核都市として新たなまちづくりのデザインがはじめられていた。
自然を守りながら農業や地場産業を育て自立する地域づくりへのテーマは、米軍政下で自治が大きく制限されていた時代からの脱却をめざすもので、彼が最初に取り組んだ仕事であった。
岸本建男は、1943年旧名護町安和に生まれ、中学時代まで名護で過ごし、1960年代は首里高校・早稲田大学政経学部で学んだ。大学を卒業後、40数カ国に及ぶ世界放浪の旅を経験し世界と民衆の生活をつぶさに見た。
当時、沖縄から本土への行き来は琉球政府発行のパスポートが必要であった。未だに沖縄に覆い被さる日米安保条約は当時も大きな政治問題であった。政局が揺れ動き安保闘争で学生も激しく抵抗していた時代を彼は東京で体験している。世界放浪の旅から帰沖した彼は、国建で働き、その後、誕生まだ浅い名護市役所に入る。
若きリーダーとして、彼のまわりには職員が集まり、まちづくりへの議論が熱く語られ、地域自治研究会を立ち上げた。その熱気は、まちづくり実践への大きなエネルギーとなっていった。また彼の豊富な人的ネットワークも大きな力となった。助役時代、普天間基地移設の問題が名護市に持ち込まれ、政治問題として名護市の世論が分裂した。市民投票の結果を押し切って当時の市長は受け入れを容認し、即辞任した。予期せぬ混乱の中、岸本建男は後任としてその問題を引き継がざるを得なくなった。
岸本建男の市長時代(2期8年)は普天間基地問題に翻弄された日々であった。19981999年、名護市長として普天間基地移設の問題について、住宅地上空の飛行禁止や基地と地元自治体との使用協定の締結など7つの条件を付け、普天間基地の代替施設建設計画を受け入れた
。
この問題では、極めて難しい政治的な選択を迫られ
「
政府や関係機関に対して、常に真意をつかみあぐねる状況をつくりだし、政治力を保った」と評するメディアもある。
しかし、一方で、岸本建男のとった市政の運営については
「
基地が代償の振興策ではないか
」
という批判もある。「
基地か経済か
」この選択肢のなかで理想と現実が交錯した。また、残念ながらこの問題をきっかけとして、かつて仕事やまちづくりの活動などを通して志を共にした多くの盟友たちと挟を分けた。
2006年2月、
市役所で行われた退任式のあいさつでは
「
市長として(
自分の任期中に
)この問題に対して解決の糸口を見いだせなかったことについては
、忸怩たる思い
」と語り、
無念の思いと同時にこの重い問題の解決を次代へと託した。
岸本建男の生きた時代は、戦後名護・沖縄の復興の苦悩と重なる。彼とその時代を語ることは。現在なお続く沖縄の課題を論じることになる。
岸本建男の身近にあった人たちが、彼の人間像、人生、そして事績を事実に基づいて、また関わった人々の証言や思い出によって記録しようと、『
岸本建男とその時代
』の刊行を昨秋発案し、企画・準備作業に着手した。毎月のように十名余の有志が集い、彼の少年期から学生時代、名護市役所時代、名護市長時代のさまざまなエピソードが語られ、話は広がっていった。このなかで私たちは
『
岸本建男とその時代
』
の編集方針と基本事項を次のように絞り込んだ。
1
:「
思い出集
」、「
顕彰風
」
ではなく、「
岸本建男
」を多面的に記録・表現する。
2
:
戦後から現代の名護市を生き、
名護市に情熱をかけてきた人物・岸本建男をとおして、私たちは多くのことを学び、そして残された課題を受け継いでいく。
3
:
岸本建男の人生の画期と時代
( 1
少年時代
〜
学生時代、 2
名護市役所時代、3
名護市長時代
)
に対応させて
、広い人脈・ネットワークを記録していく。
4
:
岸本建男の後期の人生は、「
名護市の(まち
)
をつくる
」
ことに傾注された。
基本テーマである、「
名護市のまちづくり
」
を中心軸に設定する。
5
:
岸本建男の
「
まちづくり
」
への思想・試行・実践・過程を検証、評価し次の世代が学び、課題を引き継いでいけるような内容をめざして、本書を記録・編集する。
このような方針と方法の実現は容易ではない
。
私たちには
『
岸本建男とその時代
』
を真摯に学び直していくという課題がある
。
拙速ではなく、多くの人々の参加と協力によって、必要な時間と知恵と力を注いで、この事業を進めていきたい。
関係資料の発掘と収集・整理をはじめ
、
関係者
(
寄稿者
)
の確認・依頼、事務的作業、原稿の執筆・集約・整理・編集の過程を含めて、『
岸本建男とその時代
』
の印刷・刊行まで、
多くの作業と時間を要することが考えられます。予算・基金計画もこれからとなります。
つきましては、この刊行事業の趣意をお汲み取りくださり、みなさまのご支援とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。
2009
年
(
平成21年
)
1
月吉日
『岸本建男とその時代』刊行委員会